多くの企業で、海外展開は兼務の担当者1人に任されています。これは予算の問題である以上に、構造的なリスクです。何が起きるのかを具体的に挙げます。
1人体制で起きること
- 並行処理ができない:規制を調べている間、パートナー探しが止まる
- 再起動コストが積み上がる:他業務との切り替えのたびに文脈を失う
- チェックが働かない:判断の誤りを指摘する人がいない
- 不在時に完全に止まる:休暇、出張、体調不良で進行が停止する
- 異動で全部が消える:引き継ぎ資料では文脈が残らない
海外展開は並行して進む工程が多い業務です。1人体制は、この並行性と根本的に相性が悪い。
並行できないことのコスト
参入直前フェーズでは、次の工程が同時に走ります。
- 製品登録の申請と進捗管理
- パートナーとの契約交渉
- 物流ルートの設計と見積もり取得
- パッケージの現地語表示の作成
- 価格の最終確定と社内承認
1人ならこれを順番に処理するしかありません。本来3か月で終わる工程が、1年かかります。しかも順番に進めると、後の工程で分かったことで前の工程をやり直すことになります。
チェックが働かないことのリスク
1人で判断していると、次のような誤りが検出されません。
- 規制の解釈を誤ったまま進める
- 契約条件の不利さに気づかない
- 価格の計算に誤りがある
- 重要な確認項目を飛ばしている
いずれも、後から発覚すると影響が大きい。1人体制では、間違いに気づくのが常に手遅れになってからです。
人を増やす以外の補い方
専任を置ければ理想ですが、規模によっては現実的でありません。人を増やさずに補う方法は次の通りです。
- 確認項目をリスト化する:経験に頼らず、抜けを構造的に防ぐ
- 情報を一箇所に集約する:探索コストと再起動コストを下げる
- 調べる・まとめるを外に出す:担当者の時間を判断に集中させる
- 判断を1人にしない:意思決定だけは複数人で行う体制にする
3番目が最も効きます。作業を外に出せば、1人でも並行処理が成立します。担当者は複数の工程の判断を受け取るだけになるためです。
異動対策を、最初から組み込む
担当者は必ず替わります。年単位のプロジェクトである以上、これは前提です。
- なぜその市場を選んだかの理由を記録する
- 契約条件の交渉経緯を残す
- 登録番号、有効期限、更新期日を一覧で管理する
- パートナーとの関係を、個人ではなく組織に紐づける
引き継ぎ資料を作るのではなく、常に引き継げる状態を保つ。これが唯一の現実的な対策です。異動が決まってから資料を作っても、文脈は残りません。