1市場目で多くを学んだはずなのに、2市場目でまた同じところでつまずく。経験が組織に残らないことは、海外展開の速度を最も強く制約します。
なぜ残らないのか
- 記録されていない:判断の理由が誰の頭の中にもない
- 個人に紐づいている:担当者の経験としてしか存在しない
- 形式が揃っていない:市場ごとにバラバラの資料で、比較できない
- 探せない:どこかにはあるが、必要なときに見つからない
- 更新されない:古い情報が残り、どれが最新か分からない
結果として、2市場目は実質的にゼロから始まります。担当者が同じでも、記憶は薄れ、細部は失われます。
残すべきは、結論ではなく理由
「台湾を1市場目に選んだ」という結論だけを残しても、次に活きません。残すべきは判断の理由です。
| 残すもの | 例 |
|---|---|
| なぜその市場を選んだか | 規制が軽く、価格が成立し、代理店候補が3社あったため |
| なぜその代理店を選んだか | ドラッグストアへの配荷実績があり、登録経験があったため |
| なぜその条件で合意したか | 独占を1年限定にする代わりに、最低発注量を緩めた |
| 何で失敗したか | 賞味期限の残存要求を確認しておらず、初回出荷が遅れた |
| 何が想定と違ったか | 想定より価格感度が高く、小容量版が必要だった |
数値の実績を残す
定性的な理由に加えて、実際にかかった数値を残すことが、次の計画の精度を上げます。
- 書類の取得に実際にかかった日数(証明書ごとに)
- 登録申請から承認までの実日数
- 差し戻しの回数と、その理由
- 実際の関税率と輸送費
- 代理店との交渉にかかった期間
- 初回出荷から初回リピートまでの日数
これらが揃うと、2市場目の計画が推測ではなく実績ベースで作れます。計画精度の差は、そのままスピードの差になります。
一箇所に、同じ形式で
記録が残らない実務的な理由は、置き場所と形式が決まっていないことです。
- 市場ごとに、同じ項目のシートを持つ(比較できる形式にする)
- 判断の記録を、決定の直後に書く(後からでは思い出せない)
- 数値の実績を、都度記入する
- 書類と証明書を、有効期限とともに一覧管理する
- 個人のメールやフォルダではなく、共有の場所に置く
完璧なシステムは不要です。同じ形式で、同じ場所に置くだけで、蓄積は始まります。
蓄積が横展開の速度を決める
海外展開の投資対効果は、1市場目では出ません。2市場目、3市場目で回収する構造です。
1市場目で作った書類、学んだ手順、把握した相場。これらが次に活きるかどうかで、横展開のコストは数倍変わります。逆に言えば、蓄積しない組織は、何市場出しても常に1市場目のコストを払い続けます。
1市場目は投資、2市場目から回収。回収できるかどうかは、記録が残っているかで決まる。