海外向けのブランドサイトを作るとき、多くの会社は日本語のコピーを翻訳します。文法的には正しい英語や中国語ができあがりますが、ほとんど何も伝わっていないことが多い。理由は言語ではなく、前提の共有度にあります。
日本語のコピーは、省略でできている
日本のブランドコピーは、多くを語りません。「職人の手仕事」「一〇〇年続く」「素材にこだわる」。これらは日本の消費者には十分に伝わりますが、背後にある文脈を共有しているから成立している表現です。
海外の消費者はその文脈を持ちません。「職人の手仕事」と言われても、それが何を意味し、なぜ価値があるのかが分からない。翻訳しても伝わらないのは当然です。
抽象を、具体に置き換える
解決策は単純です。抽象的な価値を、検証可能な具体に置き換える。
| 日本語の表現 | 海外向けの再構築 |
|---|---|
| 素材にこだわる | どの産地の、どの素材を、なぜ選んでいるか |
| 職人の手仕事 | 工程のうちどこが手作業で、それにより何が変わるのか |
| 一〇〇年の伝統 | いつ創業し、何を変えず、何を変えてきたか |
| 安心・安全 | どの基準を満たし、どの検査を通しているか |
| 丁寧に作る | 一日あたりの生産量と、その理由 |
具体は翻訳しても失われません。数字と固有名詞は、どの言語でも同じ意味を持ちます。
何を語らないかを決める
同時に、日本では価値になるが海外では意味を持たない要素もあります。
- 日本国内での受賞歴(現地で知られていない賞は価値を持たない)
- 有名人の起用(現地で知られていなければ意味がない)
- 日本国内での販売実績(規模の感覚が共有されない)
- 業界内での評価(一般消費者には届かない)
限られたスペースにこれらを載せると、本当に伝えるべきことが薄まります。削る判断のほうが重要です。
現地で意味を持つ文脈に接続する
再構築の最後の工程が、現地の関心事への接続です。同じ製品でも、市場によって刺さる文脈が違います。
- 気候:高温多湿の市場と乾燥した市場では、求められる機能が違う
- 宗教・文化:成分の由来や使用場面への配慮が必要な市場がある
- 生活習慣:入浴、食事、スキンケアのルーティンが異なる
- 社会的関心:環境配慮、動物実験、原料のトレーサビリティへの感度が市場ごとに違う
手順としてまとめる
- 日本語のコピーから、抽象的な表現をすべて洗い出す
- それぞれについて「具体的には何か」を社内で言語化する(ここが最も時間がかかる)
- 現地で意味を持たない要素を削る
- 現地の気候・習慣・関心に接続する文脈を足す
- そのうえで翻訳する(ネイティブによる確認を必ず入れる)
2番目の工程を飛ばすと、どれだけ良い翻訳者を使っても結果は変わりません。翻訳の前に、日本語で具体化することが本体です。