訪日客に売れている製品は、海外展開の最有力候補です。実際に需要が証明されているからです。ただし「日本で買われること」と「現地で買われること」の間には、いくつもの断絶があります。
インバウンド需要が持つ、確かな価値
まず正しい部分から。インバウンドで売れているという事実は、次を証明しています。
- 製品そのものが、外国人の目から見て魅力的である
- 価格に対して、価値が伝わっている
- 特定の国・地域の消費者に、実際に選ばれている
- 購入者は帰国後、その製品を再び探す可能性がある
とくに最後の点が重要です。帰国後の再購入需要は、海外展開の初期需要として最も確実性の高い層です。
断絶1:買われた理由が「旅行だから」かもしれない
インバウンド購買には、旅行という文脈が乗っています。お土産だから、日本でしか買えないから、という理由で選ばれている可能性がある。
この場合、現地の棚に並んだ瞬間に理由が消えます。日常の選択肢として競合と並んだときに選ばれるかは、別の問いです。
断絶2:日本での価格は、現地では成立しない
インバウンド購買は日本の小売価格で成立しています。しかし輸出すると、輸送費・関税・代理店マージン・小売マージンが乗り、現地価格は日本の2〜3倍になります。
「日本で買ったときは手頃だった製品が、現地では高級品になる」。この価格帯の移動によって、購買層そのものが変わります。同じ人が買い続けるとは限りません。
断絶3:規制で、そのまま出せない
これが最も現実的な壁です。日本国内で販売している製品は日本の規制に適合していますが、輸出先の規制は別です。
- 成分が使用不可、または上限を超えている
- 効能表現が現地では認められない
- パッケージに必要な表示項目が不足している
- 製品カテゴリの分類が日本と異なり、別の手続きが必要
インバウンドでの販売は日本国内での取引なので、これらの確認は一切不要でした。輸出に切り替えた瞬間に、全部が必要になります。
それでも、最良の出発点である
断絶を並べましたが、インバウンド需要が海外展開の出発点として優れていることは変わりません。需要仮説の検証コストが実質ゼロだからです。
実務的な進め方はこうなります。
- インバウンド購買データから、どの国の顧客が、どの製品を買っているかを特定する
- 購入個数と購入場所から、自分用需要か土産需要かを推定する
- 対象国の規制を確認し、そのまま出せるかを判定する
- 現地小売価格を逆算し、購買層が変わらないかを確認する
- 越境ECで、帰国後の再購入需要が実在するかを検証する
5番目まで確認できれば、代理店交渉に持ち込む材料としては十分です。