日本食への関心は、13市場のいずれでも高い水準にあります。にもかかわらず、日本の食品メーカーの海外展開が進みにくいのは、規制と嗜好という性質の違う壁が二重にあるからです。
壁1:食品は登録要件が重い
食品は、化粧品以上に登録と表示の要件が厳しい市場が多いカテゴリです。
- 添加物:市場ごとに使用可能なリストが異なり、日本で一般的な添加物が不可のことがある
- 賞味期限表示:表記形式が指定されており、日本式の表記では認められない場合がある
- 栄養成分表示:表示項目と単位の指定がある
- 原産地証明:放射性物質検査証明を求める市場・品目が残っている
- ハラール認証:GCC市場では、対象品目で事実上必須になる
壁2:味の好みは、思っているより違う
日本で「万人受け」する味が、現地では強すぎたり薄すぎたりします。甘さ、塩分、出汁の香り、食感。とくに発酵由来の香りは、市場によって評価が大きく分かれます。
ここで難しいのは、現地に合わせて味を変えると「日本の味」という価値が薄れることです。どちらを取るかは戦略の問題であり、正解はありません。ただし意識せずに日本の味のまま出して失敗するのは避けられます。
入り口になりやすいカテゴリ
実務上、次のカテゴリは壁が相対的に低く、入り口として機能しています。
| カテゴリ | 入りやすい理由 | 注意点 |
|---|---|---|
| 調味料 | 常温流通、賞味期限が長い、少量で試せる | 添加物とアレルゲン表示 |
| 菓子・スナック | 嗜好の壁が低く、贈答需要がある | 油脂・乳成分のハラール適合 |
| 麺類(乾麺) | 常温流通、日本食の認知が高い | スープの動物由来原料 |
| 茶・飲料 | 健康志向と結びつく、日本産の信頼が効く | 機能性表示の規制 |
逆に、冷蔵・冷凍が必要な商品は物流の難易度が跳ね上がります。最初の一手には向きません。
現地の日本食レストランという経路
13市場のいずれにも、日本食レストランが相当数あります。この業務用の経路は、小売より先に立ち上がりやすいという特徴があります。
- ロットが読みやすく、リピートが安定する
- パッケージの現地語表示要件が小売より緩い場合がある
- 現地のシェフが使うことで、消費者の認知が後から立ち上がる
業務用で足場を作ってから小売に広げる順序は、食品では特に相性のよい進め方です。
賞味期限が、輸出の制約を決める
食品輸出で最後に効いてくるのが賞味期限です。海上輸送で数週間、通関で数日、現地倉庫から店頭までさらに数週間。残存賞味期限に対する小売の要求を満たせず、出荷できないことがあります。
「入荷時点で賞味期限の3分の2以上が残っていること」といった条件が課されるのが一般的です。逆算すると、賞味期限が短い製品は輸出そのものが成立しません。製品選定の段階で確認すべき最重要項目のひとつです。