海外展開の議論で最も避けられるのが撤退の話です。しかし撤退基準を先に決めていない事業は、必ず漂流します。この記事では、感情を挟まずに判断するための基準を、参入前に決める3つの数字として示します。
なぜ撤退が遅れるのか
撤退が遅れる理由は、経営判断の誤りというより構造的なものです。
- すでに投じたコスト(登録費用、在庫、時間)を回収したい
- 担当者の評価に直結するため、失敗を認めにくい
- 代理店との関係を壊したくない
- 「もう少しで動くかもしれない」という期待
- 撤退の基準を決めていないため、判断のきっかけがない
最後の項目が本質です。基準がないから、いつまでも判断できない。
参入前に決めておくべき3つの数字
撤退基準は、参入前に決めるべきです。うまくいっていない最中に決めようとすると、必ず甘くなります。
- 期限:いつまでに結果を出すか(初回出荷から◯か月)
- 最低ライン:その時点で何を満たしていれば継続か(リピート発注の有無、配荷店舗数、月商)
- 投資上限:総額いくらまで投じるか(登録費用、在庫、販促費、渡航費)
見るべきシグナル
数字以外にも、判断材料になるシグナルがあります。
| シグナル | 意味 |
|---|---|
| 2回目の発注が来ない | 店頭で動いていない。最も明確な危険信号 |
| 連絡の頻度が落ちる | 代理店の優先度が下がっている |
| 配荷店舗数が増えない | 小売が採用していない |
| 販促が実行されない | 代理店が投資判断をしていない |
| 在庫が動かない | 出荷は増えても販売が伸びていない |
連絡頻度の低下は、数字に出る前の先行指標です。相手の熱量が落ちたら、その市場はすでに止まり始めています。
撤退のやり方
撤退を決めたら、次の順で進めます。感情的な断絶は避けるべきです。
- 契約条件を確認する:解除の要件、通知期間、残存在庫の扱い
- 在庫を処理する:買い取るか、消化を待つか、値引き処分か
- 登録の扱いを決める:更新するか、失効させるか。再参入の可能性を考慮する
- 関係を維持する:将来の再参入や、他市場での協力の可能性を残す
- 学びを記録する:なぜ止まったかを、次の市場のために言語化する
3番目が重要です。登録を失効させると、再参入時に一から取り直しになります。将来の可能性があるなら、更新コストを払って維持する判断もありえます。
撤退は失敗ではない
最後に、位置づけの問題です。撤退を失敗と扱う組織では、誰も撤退を提案できません。結果として、止まった市場に何年もリソースが張り付きます。
撤退は、リソースを別の市場に振り向ける判断です。1市場で得た知見は残り、書類も残り、次の市場で活きます。この位置づけを組織で共有できているかどうかが、海外展開全体のスピードを決めます。
止まっている市場を維持することのコストは、撤退のコストより大きい。